僕のバイブル(1/25)

Blackスタジオでプラネタリウムライヴに向けての準備を一人でしていました。ここには「あしたのジョー」全20巻があります。ついつい手に取り読み出してしまいました。泣く事数回。やはりこの物語は僕にとってのバイブルなのです。昔は感じなかったのですが最近感じるようになった事を少し。


一言でいえば矢吹丈という戦う男の物語であるわけですが、丈を取り巻く色々な人たちの物語でもあります。特に丈に思いを寄せる白木葉子と「林屋」の紀子という女性の対比のさせかたは単なる「男の根性スポーツもの」という枠にとどまらないものがあると思います。


14巻のカーロス・リベラとの後楽園球場での死闘の後に丈と紀子が一度だけデートするシーンがあります。紀子は疲れてしまっている丈にボクシングを引退すれば、と勧めるのですが丈はそれを断ります。その後の絵を良く見ていくと丈と紀子が歩いてる横で道に座り込み酒瓶を傍らにおいて昼寝している人の前で犬が「おすわり」をしているカットがあります。後ろには洗濯物が干してあり遠くには高いビルが見えています。そしてその次のカットは昔の家の屋外に良くあったタイル製の流しのカットです。そしてその2ページは一つの台詞もなくデートをする丈と紀子の姿が描かれています。思うにここのシーンは丈にとって物語の中で唯一の「平和な日常」に戻っていた場面だったのではないかと思われます。僕のとても好きなシーンです。そしてそのデートを締めくくる言葉があの有名な「真っ白になる」という丈の言葉であり、紀子の「矢吹くんのいっていること・・・・なんとなくわかりそうな気がするけど、わたしついていけそうにない・・・」です。


一方の白木葉子はどの場面においてもボクサー丈の人生のフィクサーとなっています。それは少年院時代から一貫して変わらない事です。丈がグローブを取って相手と戦う事の裏には必ず白木葉子という女性が存在するわけです。力石が死んだ直後に葉子は丈に「あなたは罪深きボクサーなのだからリングの上で死になさいと」強く言います。
単なる偶然ではないと思われますが、その葉子と丈のデートするシーンも14巻にあります。丈の連戦連勝パーティーから二人で抜け出してボーリングをしたりします。そしてやはり引退を勧める葉子に向かって丈は「あんたはおれをつかまえてリングで死ねといったんだぜ。もう忘れちまったのかい」と言い、葉子は「やめてよ。もうその話はやめて」と言います。
その後も葉子は世界タイトルを目指す丈の進路をことごとく決めていきます。言い換えればアスリートとしてのボクサー丈は段平が作ったのですが、プロボクサーとしての丈の道筋は葉子が作ったようなものなのかもしれません。その葉子が世界戦に向かうパンチドランカーに蝕まれた丈に向かって「あなたのことが好きなのよ。私のためにリングに上らないで」と泣いて叫びます。


紀子は丈の親友・西と結婚します。僕の最大の謎でありこの物語の大きさを感じることは20巻一冊を通して描かれるホセ・メンドーサとのタイトルマッチを何故西夫妻が見に来ないのかという事です。あらゆる場面を代表する登場人物が日本武道館に見にきているにも関わらず、西の姿は20巻の中で一つもありません。19巻での西と紀子の結婚式に丈も出席してスピーチまでしているにも関わらずです。ただその結婚式の最後の描写は丈の「まぁせいぜい幸せになってくれや」というスピーチを受けたウェディングドレス姿の紀子の「・・・・・」というカットで終わっています。


紀子が西をタイトルマッチに行かせなかった、といったら言い過ぎでしょうか?11巻で紀子は丈に「ボクシングを止めてつつましく下町の人に愛されて働く毎日だってあるじゃない・・・」と言います。西はそれを選んだという事なのであり、その事によってこの物語から姿を消したという事なのではないでしょうか。


葉子はリングサイドで世界戦の行方を見守ります。そして丈は使ったグローブを「あんたに・・・・もらってほしいんだ・・・・」と言いながら葉子に渡し「真っ白」になってしまいます。


僕が最近感じるようになった「あしたのジョー」のアナザーストーリーは男の人生を決めてしまったこの二人の女性の物語なのです。