夢の中へ(12/15)

こともあろうに車をぶつけてしまった。修理に出したのだが車がないと困るので兄の乗っている車をしばらく貸してもらうことにした。実はこの借りた「スバル・レックス」はかつて僕が乗っていた車なのだ。今日、取りにいったついでにしばらくぶり掃除をしていました。


「なんでまた私に乗るの?」
「恥ずかしいのだけれど実は今の車をぶつけてしまったんだ」
「あなたはずっと運転には慎重だったじゃない」
「自分でも判らない。ぶつかってから初めて気がついたんだ」


彼女は笑った。


「でもそのおかげでまたあなたに運転してもらえるわけなのね」


後部座席の足元のカーッペットに掃除機をかける。


「禁煙は続いているの?」
「もう二年以上だね」
「私に乗っている頃にあなたはタバコをやめるのに一生懸命だったわ」
「そうだったね。でも正直に言うと禁煙した後にも一本だけ吸った事があるんだ。」
「知っているわ。梅雨のころの話ね」


ダッシュボードに雑巾をかける。


「君は元気なの?」
「多分ね。でも時々息が苦しくなるの」


アイドリング。回転が不整脈のように波打つ。


「どこが悪いのだろう?」
「わからない。でもあなたのお兄さんが先月エンジンオイルもプレーキオイルも換えて下さったのよ」
「やっぱりもう一回調べてもらおうよ。でもその前にもう少しキレイにならなきゃね」
「ありがとう。嬉しい」


バケツを持ってきて雑巾を絞りボディを拭く。窓を磨く。そしてディーラーのメカニックに調べてもらう。


「キャブレターがかなり汚れていましたね。距離もかなり走っているのでオイルが混ざってしまうのでしょうね。その汚れでキャブが半分つまりかけているような状態でした。でも洗浄しておきましたから、回転は安定しました。それからエアクリーナーのフィルターも早めに交換した方が良いですよ。今日は作業費として2500円頂きます。」


「本当に息が楽になったわ」
「フィルターを換えればもっと楽になるよ」
「ありがとう。でもあなたが心配しなきゃならないのは今乗っている車のことよ」
「・・・・・」
「楽器を一杯乗せて吉祥寺のライヴハウスにいったのを憶えているわ」
「僕は君が小さなエンジンを高鳴らして一生懸命走るのが好きだった」
「過ぎてみると良い思い出ばかりよね」
「でも君を手放してしまった」
「大丈夫よ。あなたが私を大切にしてくれていた事はちゃんと感じていたし、私がどこにいったとしてもその事は忘れないわ。きっと仕方ない事ってあるのよ」
「・・・・・」


信号を右折。立体駐車場へ。