子供の頃の風景 (7/20)

自然について何回か書いてきたので僕が子供の頃の自然の風景をいくつかひろって書いてみたいと思う。
僕が父の転職に伴って生まれ育った新宿を離れて東京都町田市の鶴川に引っ越したのはもう30年以上前になる。世の中は団地建設のブームで町田市も鶴川だけでなく何箇所かで団地の建設が進んでいた。ただ団地建設のために造成された土地に比べれば残っている里山のほうがまだ圧倒的に多く、小学校の校庭でさえコンクリート張りだった新宿から引っ越してきた自分にとっては自然に対する驚きで一杯だった。たとえば家は団地から少し離れた一軒屋だったのだが、夏の夜に門灯を点けておくとカブトムシやクワガタがそこに集まってきてしまうのだ。これらの虫は新宿のデパートでは一匹いくらで売られているものであって、欲しくてもそうそう手に入るものではなかった。また庭ではバッタが元気良く飛び回っていたが、僕はそれまでバッタが羽を広げて飛ぶなんて姿を見た事が一度もなかった。
都心に住む従兄弟たちがそんな噂を聞きつけて夏休みになると家に泊まりに来た。家の裏手の雑木林は別名「まむし谷」と呼ばれ左手の奥のほうには沼があってまむしが多く生息しているので近づかないようにと言われていた。比較的安全な右手の林の中の何本かの木に前日にちょっと傷をつけておく(何の木が良かったんだっけ?ちょっと思い出せない)、すると樹液が染み出してきてそれに集まってきたカブトムシやクワガタが一杯採れるというわけだ。翌日の早朝に僕らの近所の仲間と従兄弟達は期待を膨らませてそこの場所に行った。期待通り木の樹液の染み出しているとことに虫が一杯集まっていた。早速網を取り出して獲っちゃおうかな、と木の横に回りこんだ時に赤褐色の大きなハチがやはり樹液を吸っているのが見えた。地元の仲間が「スズメバチだ!」と叫んだ。「刺されると死ぬぞ!」と誰かが言った。僕達は大漁の獲物を放り出して一目散に逃げた。意地の悪い奴が「すぐ後まで追っかけて来てるぞ!」と叫びながら走っていた。
その林の先には田んぼがありその中を小川が流れていた。僕らは裸足で小さな堰堤下の流れに入り網やザルで流れの淵を探った。ザリガニが良く獲れた。中でもアメリカザリガ二の大きい奴は通称「マッカチン」と呼ばれてみんなの一番の狙いだった。ただこいつのハサミで挟まれるとかなり痛かった。小川には板一枚の橋がかかっていて僕らは一列縦隊で渡った。必ず誰かが落とされて気の弱い子だと半ベソになったりした。その横を犬が「夏は水の中が涼しくって!」という顔つきでジャバジャバ渡っていった。