金網族(6/10)

競輪によく行った。始まりは93年に立川競輪場で行われたダービーに兄に頼まれて車券を買いに行った事だった。まるっきりイヤだったら断って行ってなかっただろうから、やはりどっかでは「ちょっと行ってみるかな」という気分だったのだろう。
競輪の魅力というのは磨き抜かれたアスリートの可能性にお金を投資するということなのだと思う。やはり車券を買う方は「この選手はやってくれる!」と信じて買うのだ。それだけに信じていた選手が力を出し切れなかったりした時のファンの罵声は凄まじいものがある。僕はかつて川崎競輪場で落車してユニフォームも千切れて痛みで身動き出来なくなっている選手に「お前なんか死んでしまえ!」という声が飛んでいたのをハッキリと憶えている。
僕が初めて行った立川ダービーの決勝は雨の中で行われて、当時は若手だった海田選手が優勝した。彼がウイニングランをするのを見ていて僕は密かに感動してしまっていた。様々な思惑をもって競輪場に来て車券を買い求める人たち。それに応えるために過酷なトレーニングを自分に課している選手たち。金網越しにレースを見守る真剣な眼差し。残り一週半を告げる鐘の音。バンクを取り巻く歓声。そしてたった一人の勝者と負けた8人の選手たち。車券が当った人と当らなかった人。「ギャンブル」と呼ばれ何か暗いイメージを持っていたのだがそれとは違う「スポーツ」と「スポーツを愛する人たち」の放つものに感動したのだと思う。競輪場に集まる人たちはお金も好きだけど、やはり「競輪」が好きなのだ。
僕は競輪場に集まる人が好きだ。こんなことが京王閣であった。コワモテ風に見えるおっさんが声をかけてきた。「よう、ニイチャンは次のレースどっから狙うんだ」「僕は本命の裏表と筋違いを数点・・」「おう絞り込んでるな〜。決められないんだ。優柔不断で」。
レースが終わって運良く車券が当って払い戻しに並んでいるとそのおっさんも並んでいて回りの人に大きな声で話し掛けていた。「俺は初めからこの車券一点だと思っていたんだ。競輪知っているヤツは悩んだりするレースじゃないよ」。
僕は下を向いて少し笑い次のレースのことを考え始めていた。