「明日の記憶」

「明日の記憶」。前から見たかった映画です。若年性アルツハイマーについて描かれた映画です。


最近、同年代の仲間が集まると「記憶力が落ちた」「名前が出てこない」「昨日の夕飯が何だった思い出せない」等々の話題が良く出ます。アルツハイマーというのは決して人事ではなく自分のすぐ近くにある事なのではないかと思いながら見ました。
自分の記憶がボトボトこぼれ落ち流れ去ってしまう、親しかった人の名前も思い出せない、自分の家族の事も分からない、脳がそのような症状になっていく事を想像すると正直言ってとても怖いです。


実は僕の叔父もアルツハイマーでした。何回か母と一緒に会いに行きました。母の兄ですから。叔父は母に向かって「何処かでお会いした事がありましたっけ?」と語りかけました。全く口調は優しく普通なのです。叔母は「もう、いつもこうなのよ」って言いながら笑っていました。
叔母と母が食事に行っている間、僕は叔父とベランダに出て昼の優しい陽を浴びながら話をしました。
「僕は子供の頃、叔父さんに何回も釣堀りに連れて行ってもらったんですよ」
「はーそうですか」
「僕はそれで釣りが好きになって、叔父さんが大事にしていた釣竿をねだって貰ったんです」
「はーそんな事があったのですか」
僕は昔の事を話す事で何かを思い出してくれるのではと思い話し続けました。でもそこには僕という存在の記憶はないようでした。見知らぬ人から自分の記憶にない事を言われているのに仕方なく相槌を打っているだけのようでした。記憶を失うというのは何て淋しい事なんだろう。僕はその時にそう思いました。そして記憶を失っていく途中に叔父が味わった不安や苦しみがどれほどのものであったかを想像すると今でも辛い気持ちになります。でもその時は殆どの記憶を失っていたので叔父の表情は何ていうか子供のように曇りのない穏やかな表情でした。数年前にその叔父は亡くなりました。


映画では渡辺謙がその苦しみを見事に演じています。でもそれ以上にこの映画は人と人が支えあう事の大事さを描いているように思いました。勿論、樋口可南子が演じる妻もそうなのですが、会社の取引先の課長(香川照之)が言う「ポジティブシンキングだよ。駄目だと思えば人生駄目になる。いけると思えばいけるんだよ。病気だってそうさ。そうでしょう。負けちゃ駄目だよ」という言葉や会社を辞める際に元部下からかけられる言葉など随所に胸を打たれるシーンがありました。
この映画を見終わった後しばらくカミさんと自分たちのこれからの人生について話をしました。